日本語ではオノマトペという擬音語・擬態語が、物音や動き、感情、雰囲気などを表現するために広く使われています。日本語のオノマトペは、他の言語では見られないほど豊富に存在します。しかし、オノマトペは日本語独自の感覚的な表現でありすぎるがゆえに、英語など他の言語への翻訳は非常に困難であるとされています。

基本的なオノマトペを翻訳するための複雑さ

オノマトペを英語に翻訳する際、多くの翻訳者は意味を説明する形で訳すことが多いです。

例えば、「ドキドキ」を「my heart is pounding」と訳すように、オノマトペそのものを置き換えるのではなく、その意味を説明する形で表現します。しかし、これではオノマトペが持つリズムや響きの面白さ、感覚的な分かりやすさが失われてしまいます。

また、翻訳においては、オノマトペの代わりに比喩表現を使ったり、文全体のトーンを調整して同じ感覚を伝えようとする工夫がなされることもありますが、オリジナルの日本語表現が持つ魅力を完全に再現するのは難しいと言えます。

一つのオノマトペが持つ多義性

これはオノマトペに限った話ではなく、日本語に関して一般的に当てはまる問題ですが、同じ言葉・同じオノマトペが文脈や使用方法によって異なるニュアンスを持つ場合があります。人間が翻訳をする際には意味を把握して翻訳するので、翻訳者の技量によりますが、機械翻訳の場合、機械が高精度で文脈を分析する必要があるため、正確な翻訳が難しい可能性があります。

以下は複数の意味を持つオノマトペの例です。

1. 「ドキドキ」

  • 意味1: 心臓が早く鼓動する音を表す。たとえば、緊張しているときや恋愛感情を抱いているときに使われます。
    • 例: 「彼に会うといつもドキドキする。」

  • 意味2: 不安や恐怖を感じている状況でも使われます。
    • 例: 「暗い道を一人で歩いていて、ドキドキした。」

2. 「ピカピカ」

  • 意味1: 光り輝く状態を表す。特に新しいものや磨かれたものに使われます。
    • 例: 「新しい靴がピカピカだ。」

  • 意味2: 物事がとても良い状態であることや、新しいものを褒めるときにも使われる。
    • 例: 「ピカピカの一年生。」

3. 「ゴロゴロ」

  • 意味1: 雷の音を表す。
    • 例: 「雷がゴロゴロ鳴り出した。」

  • 意味2: 物が転がる音や状態を表す。
    • 例: 「石がゴロゴロと転がる。」

  • 意味3: 人がくつろいで無駄に時間を過ごす様子を表す。
    • 例: 「休日は家でゴロゴロしていた。」

4. 「バタバタ」

  • 意味1: 物がぶつかったり、何かが動いたりする音を表す。
    • 例: 「ドアがバタバタと閉まる音がした。」

  • 意味2: 忙しく動き回る様子を表す。
    • 例: 「朝からバタバタしている。」

5. 「ガラガラ」

  • 意味1: 物が崩れる音や、がらんとした様子を表す。
    • 例: 「建物がガラガラと崩れた。」

  • 意味2: 声がかすれている状態を表す。
    • 例: 「風邪をひいて声がガラガラだ。」

感情や状況の微妙なニュアンスを伝える必要がある

我々日本人は何気なくオノマトペを使います。

しとしと雨が降る。

お米をツヤツヤに炊くことができた。

彼氏の言い訳があまりにも子供じみていたため、気持ちがズーンと暗くなってしまった。

このように感情や状況の微妙なニュアンスを表現するためにもオノマトペが使われるため、特に翻訳をする場合において複雑化してしまいます。たとえば、心臓の鼓動や強さを表す「ドキドキ」と「バクバク」というオノマトペがあります。

「ドキドキ」は、緊張して心臓の鼓動が早くなる様子の表現に用いることが一般的ですが、「バクバク」という音からはより強い心臓の鼓動・より速い心拍数が想像されます。つまり、「バクバク」という心音のオノマトペは、「ドキドキ」以上に緊張している状態を表しています。このような微妙な違いを音だけで表すため、特に翻訳をする場合ではいちいち名言化する必要があるため、外国語へ翻訳する際に複雑化してしまう原因となります。

文化的背景を伝える必要がある

微細なニュアンスを伝えることができます。例えば、「サラサラ」と「ツルツル」はどちらも滑らかな表面を表現していますが、「サラサラ」は乾いた感じ、「ツルツル」は滑りやすい感じを強調しています。これを英語に翻訳しようとすると、「smooth」といった言葉に集約されてしまい、日本語の持つ微妙なニュアンスが失われてしまうことが多いです。

さらに、日本語のオノマトペには、日本の文化や生活習慣が色濃く反映されています。「ポカポカ」や「しとしと」など、季節感や天候を表す言葉も多く、これらを英語で同じ効果を持つ言葉に置き換えることは非常に困難です。

また、日本語では、特定の様子や状態を表すオノマトペが決まっており、日本人からすると、小さい頃からそのオノマトペを当たり前に使っているのに、外国語に翻訳する際には、「文化的暗黙の了解」のようなものがないため、どうしても逐一詳細に説明する必要があります。

オノマトペの種類と多様性

日本語には、擬音語(音を表す言葉)と擬態語(動作や状態を表す言葉)の二種類のオノマトペが存在します。例えば、「ドキドキ」は心臓が鼓動する音を表し、「ふわふわ」は柔らかく軽い感じを表します。このように、日本語のオノマトペは音だけでなく、感覚や感情、視覚的なイメージまで広くカバーしています。

英語にも「buzz」や「bang」などの擬音語が存在しますが、数や多様性の面では日本語のオノマトペには遠く及びません。日本語では、同じ動作や感覚でも微妙な違いを表現するために異なるオノマトペが使われることが多く、そのニュアンスを正確に英語に翻訳することが難しいのです。

話者や書き手によって変更・表現が変わる

オノマトペは話者や書き手によって変更・表現が変わることがあります。

例えば、「部屋がじめじめして、気持ちが悪い」と言いたいときに、湿度がとても高い状態に不快感を力強く伝える目的で「部屋がじめッじめして、気持ちが悪い」と言い換えることも可能です。「じめじめ」と「じめッじめ」のニュアンスの違いを外国語で翻訳することは難しい場合があります。

更に、オノマトペを使用する際に、語呂や耳障りの良いテンポなどを追及して、新しいオノマトペを即興で作る場合もあります。

例えば「犬の首輪がスポッと抜けて、犬はさっさとどこかに行ってしまった。」と言うときに、首輪がより勢いよくなめらかに取れたことを主張したい場合、「犬の首輪がスポポポーンと抜けて、犬はさっさとどこかに行ってしまった。」と言う人もいるでしょう。

このようなオノマトペをより強調するための活用は、我々日本人の持つ「どのオノマトペがどんなものを表すのかの文化的暗黙の共通認識」があってこそ成り立っているのです。そのため、活用したオノマトペを突然翻訳しても、海外の人にとっては謎でしかないのです。

結論

日本語のオノマトペは、その多様性、ニュアンス、文化的背景、多義性などの要素が組み合わさり、非常に特異で翻訳しづらいものとなっています。英語に翻訳する際には、その魅力や細かなニュアンスをどこまで伝えられるかが大きな課題となります。オノマトペの独特な世界観を理解し、楽しむことができるのは、日本語話者ならではの特権かもしれません。そのため、日本語を学ぶ外国人にとって、オノマトペを理解し使いこなすことは、日本文化により深く浸透するための鍵となるのです。

また、奥が深いオノマトペの世界を漫画を通じて世界に広めていけたら面白いですね。