キリスト教において、「最後の審判の日」に全ての魂が復活し、天国か地獄に送られるという教えは広く信じられています。この信仰に基づけば、死後に魂が地上に留まることはなく、幽霊という存在は理論上ありえないことになります。
しかし、そんな幽霊を題材としたホラー映画は西洋圏でも、ジャンルとして確立されており、毎年新作の映画が数多く作られるほど人気があります。
キリスト教における幽霊
死後の世界と霊的存在
キリスト教では、死後の世界には天国と地獄が存在すると考えられています。天国は神の国であり、信者たちはそこで永遠の幸福を享受します。一方、地獄は神からの分離を象徴し、罪を犯した者たちは苦しむ場所とされています。このため、キリスト教の教義では、「幽霊」として知られる存在がこの世に留まることは少ないとされています。
聖書の中の霊的存在
聖書の中には、霊的存在や亡霊についての記述がいくつかありますが、それらの記述は比較的稀です。例えば:
- サウル王とサムエルの霊(サムエル記上28章): サウル王が霊媒を通じて亡き預言者サムエルを呼び出す話があります。この場面は、霊的存在が人間の世界に影響を与える可能性を示唆していますが、一般的には霊媒や占いは聖書で禁じられています。
- イエスの復活(新約聖書の四つの福音書): イエス・キリストが復活する場面では、彼の霊的な存在が物理的な体を持って現れることがありますが、これは死後の世界と霊的存在の一例とされています。
霊的存在と悪霊
キリスト教では、幽霊や霊的存在が悪魔や邪霊と関連付けられることが多いです。悪霊は、神に対抗する存在であり、信者の信仰を試みたり、誘惑したりする役割を持っています。これにより、幽霊という概念が必ずしも死者の霊であるとは限らず、むしろ邪悪な存在として描かれることが多いです。
教会の教義と幽霊
ローマ・カトリック教会やプロテスタント教会では、幽霊や霊的存在に対する態度が異なることがありますが、一般的にはキリスト教の教義においては、死者の霊がこの世に留まることはなく、死後の世界に向かうと考えられています。また、霊媒や占いは通常、教会の教義に反するものとされており、禁じられています。
文化的な影響
キリスト教の教義に基づく幽霊の概念は、文化や時代によって異なる影響を受けることがあります。例えば、中世ヨーロッパでは、幽霊や霊的存在が宗教的な儀式や祭りと関連付けられることがありましたが、これらの文化的背景はキリスト教の教義と必ずしも一致しないこともあります。
幽霊の存在と映画
西洋映画における幽霊の描写は、物語の核をなすことが多く、その役割は様々です。例えば、「ハムレット」(シェイクスピアの戯曲を基にした映画)は、亡霊が物語の進行に深く関与し、主人公に復讐の動機を与えます。その他の映画、例えば「ゴーストバスターズ」や「ビートルジュース」では、幽霊がコメディやホラーの要素を追加し、観客に強い印象を与えます。
幽霊の描写は映画のジャンルによって異なりますが、共通して言えるのは、幽霊が「この世のものではない」存在として、物語にミステリアスな雰囲気を加えることです。
日本のホラー映画と違って幽霊を認識したがらない
先ほど書いたように、多くのキリスト教徒にとって、幽霊の存在は教義と矛盾します。そのため、幽霊を見たと感じたとき、多くはそれを合理的に説明しようとする傾向があります。例えば、錯覚や夢、脳の化学反応などと考えてやり過ごそうとするシーンも多くみられます。
特に敬虔なキリスト教徒の場合、幽霊は悪魔や堕天使の仕業だと解釈することもあります。彼らは、悪霊が人間を惑わすために死者の姿をとって現れると考えることがあります。その影響があるのか、西洋のホラー映画は悪魔憑きをテーマにしているものが多く見受けられます。また、有名ホラー映画の『IT』もペニー・ワイズの正体は宇宙人であり、幽霊ではありませんでした。
しかし、『ミスト』や『ポルターガイスト』など、幽霊をテーマにした映画も数多く存在します。また、ネイティブ・アメリカン絡みの映画(『ラ・ヨローナ』とか)や南米植民地時代の土着の信仰と混じった幽霊の話がテーマになっている映画(『ラ・ヨローナ』とか)も多く、キリスト教圏の人々も幽霊の存在をなんとなく信じているのかもしれません。
キリスト教圏なのになぜイギリス人は幽霊が好きなの?
イギリスでは、キリスト教が一般的な宗教ですが、幽霊が大好きな国民性としても有名です。
イギリスは長い歴史を持ち、多くの古い建物や歴史的な場所が存在します。これらの場所には、しばしば幽霊や超自然的な伝説が付随しており、歴史的な建物や城、教会などが「幽霊が出る」とされることが多いです。
イギリスの文学やメディアでは、幽霊や超自然的なテーマが頻繁に扱われています。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』やウィリアム・シェイクスピアの『ハムレット』など、文学作品において幽霊が重要な役割を果たすことが多いです。また、イギリスの映画やテレビドラマでも、幽霊や超自然的なテーマを取り扱う物語が人気です。これにより、幽霊に対する文化的な興味が広まったとも言われています。
イギリスには豊富な民間伝承やフォークロアがあり、幽霊や妖精、その他の超自然的な存在が多くの物語や伝説に登場します。これらの伝承は地域ごとに異なり、文化的なアイデンティティや歴史と結びついています。これらの民間伝承が、一般の人々の幽霊に対する興味を育んでいます。また、これらを話して人に聞かせることも娯楽であり、話好きな国民性を持つイギリス人にとっては大切なコミュニケーションツールになっているのです。
さらに、幽霊に関する物語や体験は、人々の心理的な興味や不安、好奇心を探求する手段としても機能します。幽霊の話は、死や未知のものに対する恐れや興味を引き出し、エンターテイメントや話題としての役割を果たしています。
結論
幽霊を否定しているキリスト教圏でも幽霊に対する関心が高い理由は、歴史的な背景や民間伝承、文学的な影響、文化的な要素が複雑に絡み合っているためです。キリスト教の教義が幽霊の存在を否定する一方で、文化や歴史、メディアの影響が幽霊に対する関心を高め、一般的な興味やエンターテイメントとしての側面を形成しています。
西洋人が幽霊を見たと感じたとき、それをどのように解釈するかは多様であり、その背景には複雑な信仰と文化の交差点があるのです。
その解釈の仕方が、映画によって表現されていると考えると面白いですね。